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仙台で今、新しい物語を創る。演出家山本タカと音楽監督熊谷太輔が描く創作の設計図

仙台市卸町をアートの新たな発信地としての発展を目指し、2017年より開催しているアートフェスティバル「せんだい卸町アートマルシェ」(以下、「おろシェ」)。4年目となる今年は初の試みとして、市民参加型作品『オイディプス王』の上演が決定しました。演出を務めるのは昨年度、穂の国とよはし芸術劇場 PLAT主催「高校生と創る演劇」シリーズで地域での滞在創作の経験もある「くちびるの会」主宰の山本タカさん。また、パーカッショニストとして活躍し、コクーン歌舞伎や串田和美演出の作品を始めとする、多数の舞台音楽経験を持つ熊谷太輔さんを音楽監督に迎えることとなりました。今回、初タッグを組むこのお二人が、仙台での滞在制作にどう向き合っているのか、本作に込めた熱い想いなどを伺いました。


——まずは、お二人の"演劇"と"音楽"の入口からお聞かせください。

山本 僕は小さい頃から、目立ちたがり屋だったようです。両親曰く、カラオケ付きのバスに乗ると、マイクを離さなかったと。幼い頃から自分が"何か"になりたいと思う気持ちはあったのかもしれません。高校では、演劇部に所属して役者をしながら台本を少し書いたりしていました。それまでは、ピアノなどの習い事をしても全然続かなかったんですが、演劇だけはハマっちゃったんですよね(笑)。高校の3年間在籍して、卒業してもまだまだ演劇を続けたいと思い、演劇が学べる大学を目指して明治大学に入学しました。いざ東京に来てみたら、役者をやりたかったはずなのに、稽古に行くのが、どうにも面倒臭くなってしまって(笑)。そんなときに、「タカさんは稽古場でたくさんアイディアを出しているし、演出やってみたら?」といわれ、野田秀樹さんの「The BEE」を初めて演出しました。いざ演出をしてみたら、本番までずっと作品のことを考えていて、役者をやっていた時は面倒に感じていた稽古も没頭できたんです。その後、「こんな演出をしたい」という演出家の視点から自分で台本を書き始め、その時観に来てくれた学生が褒めてくれたことも自信に繋がり、演出家を志すようになりました。

熊谷 僕は北海道の田舎町出身の農家の息子で、特段音楽を聞く家庭でもありませんでした。中学は全校生徒が30名位だったこともあり、人数が多く必要な吹奏楽部は強制参加でした。入部してまず言われたのが「楽器を選びなさい」と。学校の倉庫にドラムセットがあって、先生から「誰も弾く人がいないし、いまから始めたら卒業するまでにカッコよく叩けるようになるかもよ!」と言われたのが音楽に触れたきっかけです。高校に入ってもその延長で音楽を続けて、コピーバンドをしたり。僕も目立ちたがり屋でしたね(笑)。その後上京したのですが、その時は音楽をしたくて上京するというより、田舎で感じていた閉塞感から抜け出したかったのかもしれません。東京に来てから音楽活動を続ける中で、29歳の時にコクーン歌舞伎に誘っていただきました。演劇の中での音楽は、登場人物の気持ちの変化を音楽が担っていたりして。それまで僕がしていた音楽は、全体のバランスを見て「高い音が少ないならシンバルを、低い音が少ないならバスドラムを」と足りない音を足していくことで、一つの音楽を完成させていったことに対して、演劇の世界はあえて音を引くことで説明しすぎないようにすることの大切さを強く感じました。音を足すことが普通だった自分にとってはとても衝撃でしたね。でも、あえて音を引くことで俳優の演技も生きてきて、お客様の想像力も働きやすくなることが分かった時には演劇の世界にどっぷりハマっていました(笑)。演劇の音楽は、なんてカッコ良くて緻密な作業なのかと思い知りました。

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10-BOXは演劇発信基地!仙台との出会い

——仙台や10-BOXとの出会いについて教えてください。

山本 僕は2018年に「おろシェ」に初参加させていただきました。それが、初めての仙台訪問です。その時は、自分が主宰する「くちびるの会」で『猛獣のくちづけ』という作品を上演しました。僕たちの他にも東京の団体が「おろシェ」には参加していて、10-BOXでシアターコンプレックス(※1)している状況の中で、多様な作品が上演されているという豊かさ、裾野の広さ、懐の広さを感じました。その時に、仙台の劇団の公演を初めて観たのですが、こんなにも力のある作品や俳優が育まれている土地であることに驚きました。もちろん東京が全てではないと分かってはいましたが、他の地域を知らなかったこともあり、仙台の人たちでフェスティバルをつくれるという環境に感銘を受けました。地域の劇場でも貸しホール機能しかない場所はどうしても使用用途が限られてしまい、文化の発信基地にはなかなかならないと感じていて。10-BOXは稽古をして上演もできる施設。その豊かさを感じますね。

(※1) 同一の施設内に複数の上演会場がある空間

——熊谷さんは、ライブツアーなどで宮城にいらっしゃっていると思いますが、仙台にはどんなイメージをお持ちでしたか?

熊谷 東日本大震災後は、気仙沼や石巻などの被災地には演奏に行っていました。でも当時は、仙台は通り過ぎることが多くて、あまり強い印象を抱いてはいませんでした。本当はその土地の個性を発揮すると面白いはずなのに、土地の個性を出さずに洗練しようとしている都市のイメージが強くて。それが、「おろシェ」と出会い、仙台の演劇人と出会い、本当にびっくりしました。こんなに熱い人たちが仙台にはいるのかと(笑)。しかも、老若男女と層が厚い。10-BOXの環境の素晴らしさにも驚きました。各部屋の距離がちょうどよく、別々の部屋で稽古していた人が混ざり合うんですよね。これは理想的だなと。「あの劇団、あんなことやってるな。負けないぞ」と切磋琢磨できる環境だと感じましたね。仙台の皆さんは関われば関わるほど、シャイだけと、熱くて気さくな方々だと分かりました(笑)。時間を重ねるごとに違う一面が見えて、やりがいもあります。

創作を通じた新たなコミュニティの可能性

——7月に行ったオーディションはいかがでしたか?

山本 『オイディプス王』は市民参加型作品なので、「仙台の人々と演劇を作り上げること」自体も大きな目的の一つなのですが、作品としてもクオリティが高いものを作りたいと考えています。なので、オーディションで俳優に求めることも増えるだろうなと思っていました。実際にオーディションで仙台の俳優さん達と接すると、すごく演技技術の高い方が多くて感銘を受けました。さらに、参加者は18歳~60代の方々で、僕がやりたかった演出に必要な「全年齢」の人々が集まったくれたことも、とても嬉しく思っています。太輔さんが話した通り、参加してくださる皆さんもシャイだけど、接してみると演劇への熱量が高いことがすごく伝わってきます。このメンバーで『オイディプス王』を作れると思ったら、とてもワクワクします。

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熊谷 僕はオーディションの段階からお芝居に関わるのは初めてなので、すべてが新鮮で、スタートの段階から創作に参加できたことは大きな収穫でした。コロナウイルスの影響で外出自粛が続いていたのもあると思いますが、台本の読み合わせを観ただけでみなさんの気迫にとても感動してしまいました。あらためて演劇っていいなと(笑)。 あと休憩中に高校生くらいの参加者が先輩俳優たちと楽しそうに話している姿があり、これはとても素敵なことだなと。

山本 よくわかります。僕は若い世代は所属できるコミュニティが複数あった方がいいと思っていて。高校生たちにとってこの現場がその1つになれば嬉しいです。

熊谷 先輩俳優たちにとっても、若い世代と同じ舞台で切磋琢磨できるのはうれしく心強いことなのではないでしょうか。

オイディプス王を通し、リーダーという存在に僕たちはどう思いを馳せるか

——山本さん、『オイディプス王』を今回の作品に選んだ理由をお聞かせいただけますか?

山本 「おろシェ」に初参加した時に、僕が受けた印象は「祝祭」でした。すごく楽しいアートフェスティバルで、東京に帰ってからもずっとフェスの感じが抜けなくて(笑)。選ぶ作品にはその「祝祭感」を考慮にいれるべきだと思っていました。もう一つは能-BOXにあう作品を選ぶこと。三島由紀夫さんの「近代能楽集」など、能を現代バージョンにしたものを検討したり、改めて戯曲がしまってある自宅の本棚を探してみましたが、正直、どれもあまりピンとこなかったんです。そこで、伝統的な能舞台というものに、拮抗(きっこう)するような伝統性をそなえた戯曲を選ぶべきだと考えました。最後に、市民が重要な役割を担う戯曲であること。市民の群像が舞台上に登場する前提で書かれた戯曲が良いと考えました。『オイティプス王』は、コロスとして市民が登場する前提で書かれていますし、古代ギリシャで行われていた演劇祭「ディオニューシア祭」で上演されていた経緯もあるので、適合するだろうと考えました。

——山本さんの劇団では、記憶や現代とのリンクといった作品が見受けられますが、今回の『オイディプス王』ではそのような繋がりは何かお考えでしたか?

山本 『オイディプス王』の上演は2019年の年末頃に提案させていただきました。その段階では、この作品は"市民"と"王"の物語だと思っていたので、指導者や権力者の姿として、オイディプス王はどのように観客の目にうつるのか、ということに興味がありました。オイディプス王を通し、リーダーという存在に僕たちはどう思いを馳せるかな、と。これは現代に投げかけてみる必要性があると感じました。演劇を上演するということは、時代の水面に石をドボンと落とすように、考えるきっかけを生めるものだと考えていたからです。結果、今となっては新型コロナウイルスの感染拡大があり、疫病が蔓延するテーバイの町という設定が、奇しくも現代性を帯び始めました。この状況が訪れて、よりこの作品を上演しなくてはならいという思いに駆られています。

能-BOX。素晴らしすぎて、恐ろしい所

——熊谷さん、音楽監督として参加いただきたいと話があったときのお気持ちなど教えてください。

熊谷 最初は、まだ何の作品を上演するかわからないけれど、「おろシェ」で能-BOXを使いクリエイションをするので関わってほしいと声をかけてもらいました。はじめて能-BOXを見たときからこの場所はすごいぞと思っていましたね。美しくて、素晴らしすぎて、恐ろしい空間だなと。なので、お声がけをいただいた時は「能-BOXきたぞ!!」と心臓がドキドキしました(笑)。「おろシェ」というフェスのオープンな祝祭感も含め、このドキドキやプレッシャーは楽しく乗り越えて行けそうだなと思います。 タカさんと同様に僕もはじめて「おろシェ」に関わったのは2018年で、その時「くちびるの会」の作品も拝見しました。

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山本 太輔さんは、その後「くちびるの会」の東京の公演も見に来てくれたんです!

熊谷 ワニが出てきたときに「おおお演劇来たぞ!」と(笑)。作品にリアリティを求めてばかりではないところが僕は好きで、面白い演出家さんだなぁと思いました。なので、僕にとって今回の『オイディプス王』への参加は、タカさんとの念願のコラボです。オーディションとプレ稽古で、いろんな可能性の広がりを既に感じています。音楽も、能寄りにも古代ギリシャ寄りにもいろいろ試したいですね。様々な可能性を試した上で、どう落とし所をつけるのかではなく、これまでに無い新しい表現を生み出せたらと思います。

——今回の作品にとって、音楽がどういう存在でありたいか熊谷さんの中ではイメージをお持ちですか?

熊谷 普段関わる演劇の現場では、戯曲に寄り添ってサポートすることが多いのですが、今回は熊谷太輔の集大成としてぶつかっていきたいなと。出るとこはガッツリ出て「ここは僕が行きます!」みたいな(笑)。演劇に対する音楽や自分自身の在り方を新たに模索できたらと思っています。

——9月からは仙台での滞在制作が始まります。山本さんは昨年豊橋にて滞在制作をされていますが、お二人が今から心がけたいことはありますか?

山本 確かに僕は昨年豊橋で滞在創作をしましたが、滞在制作に手慣れているとは思っていないですね。むしろ、一回しかできていないというか。過去の経験からどうしようかと考えるのではなく、この土地で参加者とどう向き合い、掴み取っていくかが大切かなと思っています。滞在制作のいいところは、日常生活から離れて、毎日作品だけに向かえることなので、集中力高く進みたいです。

熊谷 仙台にはたくさんの優秀な舞台人やミュージシャンがいらっしゃることがわかりました。滞在制作という利点をいかして地元のみなさんのお力を借りながら演出家のタカさん船頭のもと、みんなでたくさんのチャレンジをしてみたいです。

山本 仙台にいる人たち全員の力を借りて作っていきたい作品ですね。

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通常では掛け合わせられないものを合わせた時、全く別の新しい演劇ができる

——最後に、意気込みをお聞かせください。

山本 8月のプレ稽古では能舞台とギリシャ悲劇について、参加者の皆さんと共に学び始めました。能楽師の山中迓晶さんによるWSでは実際に能を舞い、ギリシャ悲劇の研究をされている井上優先生のオンラインWSでは非常に興味深い講義を受けられました。参加者全員で基礎知識0だったところから、1のスタート地点にたどり着けたかなと思っています。丁寧に一つ一つ積み上げていけば、ギリシャ悲劇と能という、通常では掛け合わせられないものを掛け合わせた、全く別の新しい演劇ができるのではないかと感じています。それを僕らは創らなければならない。二つの伝統性が融合し、現代人の僕たちが新たに生み出した作品だと確かに言えるところまでやり切ること。それが、僕らが目指すべき、最低限の達成ラインだと考えています。それは本当に頑張らないと届かないところでもあるはずです。僕たちは必ず新しい何かを生み出すので、「能-BOXで生まれた『オイディプス王』はどうでしょう?」とお客様に聞いてみたいですね。

熊谷 音楽をやっていてどの瞬間が好きか考えたことがあって。本番が好きなのはもちろんなのだけど、実はリハーサルの時間が一番好きなんです。稽古しながらみんなであーでもないこーでもないと作っている日々が大好きなんです(笑)。今回の『オイディプス王』で、タカさんやスタッフの皆さん、そして参加される市民のみなさんと一緒に作っていけることがすごく楽しみです。そしてまずは本番の「おろシェ」で一度結果を出さないとなりませんが、僕としてはもう少し長いスパンで考えられたらと。ワークショップやプレ稽古ですでに得難い体験がたくさんあり、今回だけで終わらせずにこの輪がさらにひろまっていくと面白いだろうなと。そして来年・再来年と仲間を増やしていき、作品を作っていくことの豊かさが多くの方に伝播していったらいいなと思います。

——お二人とも、今日はありがとうございました。本番に向けて、どうぞよろしくお願いします!!